おきたまラジオNPOセンター・ひとりごとダイアリー

 

2023年7月22日(土曜日)朝晴れ のち晴れ浮かぶ

【公開講座とトークコンサート】
 米沢フルート音楽研究会主催の“公開講座とトークコンサート”が7月22日、米沢市・西部コミュニティーセンターにて開かれました。チラシ(内容や曲目)はこちらこちらまたはこちらをご覧下さい。

 今回のプログラムですが、私個人的には陸井さんとの再会が最大の楽しみでした。ドイツ在住の陸井さんとお会いするのは、おそらく4年ぶりかと思います。
 私が会場入りしたのは午前11時頃です。記録用ビデオ撮影のセッティングのため、リハーサル中に会場入りしました。リハーサルに専念していただくため、挨拶はそこそこに、機材のセッティングを始めました。この間の私はマスクを着用しました。陸井さんはリハーサル中、私が誰だったのか、よくわからなかったようです。あらためてマスクのデメリットを感じました。マスクによる特に子どもたちにおける影響が心配です。これって、私たちが考える以上に大きいと思います。

 リハーサルが終わり、私のセッティングも一段落付いたところで、勝俣さんが私を紹介、私もマスクを外したことで、陸井さんは、私のことをすぐに思い出されました。このあと、陸井さんとしばらく談義しました。
 陸井さんが真っ先に話されたことは、COVID-19パンデミック中における日本の入国規制の厳しさでした。それは世界一厳しかったそうです。日本は一時、21日間の自宅待機を要求しました。これでは事実上、日本には入国できない状態でした。
 一方で、ドイツなど諸外国では都市封鎖(ロックダウン)が行われました。ロックダウンは日本では無かったことです。ロックダウン対象地域では、車を運転しただけで罰金です。陸井さんの近くでも罰金になった人がいたそうです。
 パンデミック中、音楽活動は難しかったそうです。ポピュラー音楽では、自宅での演奏風景を動画サイトにアップしたり、リモートで演奏を収録し、それをミキシングすることで、作品として発表するという例がありました。クラシックでは、それも難しかったようです。

 午後1時、本番スタートです。第1部は、陸井さんが『ドイツの音楽教育の現在』と題しての公開講座というより講演(お話)です。普段はなかなか聴けないドイツの話です。
 はじめに、COVID-19パンデミックに関する話をされました。それは私との談義で話されたことです。これは陸井さんにとっても、かなり辛かったものと思われます。このあとは、ドイツの音楽教育の現状やクラシック音楽の現状などを話されました。
 ドイツではこれまでに100万人の難民を受け入れました。さらにウクライナからは200万人の難民がドイツに来ました。ウクライナからは子どもたちだけでなく、音楽家もドイツに避難です。ウクライナの子どもたちはドイツで音楽教育も受けていますが、ウクライナとは違うようです。ウクライナでの音楽教育は、陸井さんいわく(ロシアと同じ)スパルタ教育です。だから、ドイツの子どもたちとは取り組み方が違います。
 ドイツでは9歳でコースを決めます。9歳とは4年間の小学校が修了です。コースとは、大学進学か、実業的教育か、一般の教育か、の3つです。9歳でこれからの人生を決めてしまって良いのかという議論がある一方で、人生の目標を早い段階で決めることは良いという意見もあります。
 ドイツの音楽学校は3つのコースがあります。オーケストラ科やソリスト科などです。
 ドイツはこのように物事を区分する文化です。
 ドイツはアメリカに比べますと、音楽に対する公的支援などがあって、音楽環境は恵まれています。しかし、実際にはドイツでの音楽における環境は厳しくなっています。音楽が重んじられなくなりました。
 ドイツではクラシック離れが進んでいます。音楽教育に集中できない子どもたちが多くなっています。モーツアルトやバッハを知らない子どもたちが増えています。音楽学校では、中国や韓国からの生徒の方が熱心に取り組んでいます。ただ、陸井さんは、中国や韓国の人も経済環境が良くなればドイツの子どもたちと同じようになるだろうと言います。
 話を戻して、ドイツでは、例えばクリスマスには家の中でみんなで歌っていましたし、合唱団も数多くありましたが、最近はみんなで歌う機会が少なくなりました。教会離れも進みました。こうしたことがクラシック離れの背景です。
 クラシック離れへの危機感で、分かれていた教育を一体化する動きが出てきました。理論だけを教えるのではなく、オーケストラ所属(ドイツには数百ものオーケストラがあります)のプロの演奏家と一緒に演奏する体験ができるなど、実践的・総合的な教育が行われるようになりました。
 指導者の教え方の違いも影響します。それで「モーツアルトやバッハを知らない」につながりますので、指導者2人で教えることも行われています。陸井さんもサポートで指導したことがあります。
 そのほか、陸井さんはいろいろな話をされましたが、私(山口)が感じたのは、ドイツにおける課題は、音楽のみならず、あらゆることで、垣根を取り払うことができるのか・・と思います。ただ、それはドイツだけでなく、日本にも、どこの国にも当てはまることです。

 会場から出された質問に陸井さんは、フランシス・レイ、ミシェル・ルグラン、ジョン・ウィリアムズ、フランク・プゥルセルの名前を挙げて、「フランスやアメリカでは、クラシックとポピュラーに対する評価に差がありません。それに対してドイツでは、ポピュラーとクラシック音楽が分かれています。ファンも違います。ポピュラーでは同じメロディの繰り返しがあり、軽くみられます。同じメロディの繰り返しが質の低い音楽ではありませんが・・」と答えられました。
 いつもはポピュラー音楽を聴いている私ですので、ここは興味津々で聞きました。

 ドイツは電子音楽が盛んです。クラフトワーク(Kraftwerk)はYMOの元祖とも言える存在で、電子音楽の存在を世に知らしめ、ポピュラー音楽史に偉大な足跡を残しました。それは芸術としても高く評価されました。
 ディスコ・ダンス音楽でも歴史を刻みました。アラベスク(Arabesque)などが人気でした。それはB級グルメ的存在でした。クラシック音楽界からみれば、音楽として評価し難い存在と思われます。
 ハードロックではジャーマンメタルという言葉があるほどです。その代表格は、スコーピオンズ(Scorpions)です。ほかに、アクセプト、ハロウィン、ガンマ・レイなどのバンドが知られます。
 ドイツのポピュラー音楽のオーケストラで思い出すのが、ベルト・ケンプフェルト(Bert Kaempfert)率いるオーケストラです。代表曲は1960年の“星空のブルース:Wonderland by Night”です。モダンなアレンジとトランペットを効果的に使った演奏が特徴でした。
 “99 Luftballons:ロックバルーンは99 / Nena:ネーナ”が1983年に世界的です。ネーナはドイツのロックバンドです。ネーナという女性を中心にしたバンドです。反戦歌ですが、印象に残るメロディーを持つポップチューンでした。
 ホルガー・シューカイ (Holger Czukay)は実験的作品を発表しました。1979年の“Cool in the Pool”は奇想天外な作品ですが、手作業での複雑なミキシングは見事です。
 そうそう、ブレイク前のビートルズがドイツ(ハンブルク)で活動したことは有名です。
 ドイツの音楽だけをみても、これだけ幅広く、深いものです。とにかく垣根は取っ払って・・と願うばかりです。

  

 第2部のコンサートは、これまた4年ぶりに勝俣さん・陸井さんによるフルート共演と楽しむことができました。

  

 今回は機材のセッティングをしながら、リハーサルの様子も拝見しました。そこでは、窓のカーテンによって音の響きが違ってくる場面を確認しました。これは音響に詳しい人なら当たり前かもしれませんが、これで音響はかなり良くなりました。会場はコミュニティーセンターの会議室であり、クラシックの演奏会に向いているとは思えません。ただ、グランドピアノは常設です。というわけで、工夫しだいで、少しでもベターな音響にすることができました。

 私は、記録用のビデオ撮影とは言え、新たな撮影にトライしたこともあり、収穫の多いものになりました。感謝です。

 

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