だがしや楽校ひとりごとダイアリー

 

第4回『未来を築く子育てプロジェクト』表彰式

 

          日時:2011年 2 月14日(月曜日)14:30〜16:30
          会場:ホテルニューオータニ おり鶴・麗の間

          主催:『未来を築く子育てプロジェクト』実行委員会
          後援:厚生労働省
          協賛:住友生命保険相互会社

 

2011年2月14日(月曜日)東京の天気:曇り のち午後から 午後6時すぎからみぞれ のち 一時強く降る

《はじめに》
 この報告は、第4回『未来を築く子育てプロジェクト』の「子育て支援活動の表彰」部門において“だがしや楽校だがしや倶楽部”が【未来賞】【未来大賞】【厚生労働大臣賞】を受賞・表彰されましたので、表彰式の模様をお伝えするものです。
 また、この報告の最後(こちらです)には、2月20日、賞状が“だがしや楽校だがしや倶楽部”代表・阿部等さんから駄菓子屋“はじめや”(山形市)のおばちゃん(山川昭子さん)に贈呈される様子をお伝えしております。


《表彰式》
 第4回『未来を築く子育てプロジェクト』表彰式(主催:『未来を築く子育てプロジェクト』実行委員会 後援:厚生労働省 協賛:住友生命保険相互会社)が、東京都内(ホテルニューオータニ おり鶴・麗の間)にて開かれました。
 “未来を築く子育てプロジェクト”とは、住友生命保険相互会社が、子育てしやすい環境づくりを目指し、子育てに関する様々な活動を積極的に応援する社会貢献事業で、2007 年度に発足しました。今年度(2010年度)は、第4回となります。
 “未来を築く子育てプロジェクト”では、「エッセイ・コンクール」「子育て支援活動の表彰」「女性研究者への支援」の3公募事業(3部門)を設けています。
 表彰式には、受賞者及びその家族や関係者、来賓各位、主催者である『未来を築く子育てプロジェクト』実行委員7名、主催関係者など80名ほどが出席しました。
 司会は、木佐採子氏(フリーアナウンサー)です。

 
                              木佐採子氏

★『未来を築く子育てプロジェクト』実行委員紹介
 実行委員長 堀田力氏(公益社団法人さわやか福祉財団理事長、弁護士)
 実行委員  池田守男氏(株式会社資生堂相談役)
 実行委員  大日向雅美氏(恵泉女学園大学大学院教授)
 実行委員  奥山千鶴子氏(特定非営利活動法人びーのびーの理事長)
 実行委員  金田一秀穂氏(杏林大学外国語学部教授)
 実行委員  吉永みち子氏(作家)
 実行委員  横山進一氏(住友生命保険相互会社取締役会長)

★主催者挨拶:『未来を築く子育てプロジェクト』実行委員会委員長・堀田力氏
 熱い思いを持って活動されている方々に敬意を表します。私は山手線各駅で、男性サラリーマンへ地域活動への参加を呼びかける辻立を行っていますが、子どもたちが元気あるのに、男性サラリーマンは下ばかり向き、無表情で通り過ぎます。こういう現状をみますと、住友生命さんが取り組む本プロジェクトは素晴らしいと思います。
 また、応募された方々は先駆的な活動です。本来なら「これが当たり前のこと」になればと思いながら、審査に当たりました。このように、現状はまだまだですが、でも光は見えています。この光をもっともっと広げていかなければならないと思います。
 内閣府及び厚生労働大臣も、民間の支援に上手に乗ってこられたと思います。きょうは表彰のためにお二人の方に出席していただきました。その心意気に深く感謝します。
 最後に、素晴らしい賞を知恵を経験から選んでいただいた実行委員の方々のご努力に感謝申し上げます。

 
堀田力氏                                

★来賓挨拶
○内閣府大臣官房参事官 少子化対策担当 小林洋子氏
 私もエッセイを読みましたが、まさに“未来を築く子育てプロジェクト”に相応しいものと感じました。
 政府では、昨年1月“子ども子育てビジョン”を策定しました。これは「子どもが主人公」という考え方で「社会全体で子育てを支える」ことを目的に、平成25年度からの実施に向けてシステムを検討しているところです。また、首相からの特命事項として、待機児童解消プロジェクトにも取り組んでいます。“未来を築く子育てプロジェクト”は“子ども子育てビジョン”と理念は一致しており、意義深いと考えます。
 受賞者・実行委員の皆様・ここに参加された関係者の皆様のこれからのご健勝・ご発展を祈念します。

   
小林洋子氏                石井淳子氏

○厚生労働大臣官房審議官 雇用均等・児童家庭、少子化対策担当 石井淳子氏
 受賞者の皆様、実行委員会、住友生命に、感謝とお喜びを申し上げます。
 厚生労働省でも子育てしやすい環境作りに取り組んでいますが、この4月より次世代育成支援対策推進法が改正され、従業員101人以上の企業について子育て支援についての行動計画を提出するように求められます。行動計画により子育てサポート企業に認定されますと、企業PRにもなります。実際に認定された企業では、社内の雰囲気が変わってきたそうで、先程の堀田さんの話にあった「下向きサラリーマン」も減るのではないかと思います。
 私もエッセイを読みましたが、子育ての悩み・戸惑いに向き合い、地域社会との関わりの中、子どもが自立していく過程の中で、気付き・喜びが生き生きと綴られており、感動しました。
 子育てについては、行政・企業・地域のみんなが意識を持つことです。
 皆様のこれからのご発展・ご活躍を祈念します。


★表彰式(受賞者リストについては敬称略)

●「エッセイ・コンクール」部門
 「エッセイ・コンクール」部門には、子育ての苦労を乗り越え、子どもが自立していく過程で、周囲が得る気付きや喜びなどの素晴らしさを伝えるエッセイを募集したところ、全国から1,186編(郵送745、Web441)の作品が集まりました。その中より厳選なる審査の結果、下記の通り決定しました。

【優秀賞】(20編)

○稲垣良隆(神奈川県)「育児を手伝う」
○江尻詔一(千葉県)「井戸端会議」
○大泉江里(東京都)「手と、て」
○柿本清美(和歌山県・欠席)「ファミばあちゃんに感謝」
○加藤三天(神奈川県)「生きるを男も地域社会で」
○亀田真奈美(大阪府・欠席)「幸せのメール」
○北邑裕美(神奈川県)「見知らぬあなたへ」
○隈部理奈(福岡県)「画面より、子供を見る時間」
○榊原暢子(愛知県)「元祖イクメン」
○田中華由(京都府・欠席)「言葉の数珠つなぎ」
○中木滋子(神奈川県・欠席)「基本、背中で、一生懸命」
○成瀬富貴子(岐阜県)「うんこコンクール」
○浜口須美子(大阪府)「共同育児 万歳!」
○引田公子(大阪府)「3本目の手」
○丸橋弥生(神奈川県)「100点満点育児パパ誕生秘話」
○山崎恭子(神奈川県)「ちょっとだけでもね」
○山本倫代(山口県)「母親の孤独に寄り添って」
○横尾ミヤ(新潟県)「一瞬の笑顔」
○吉田和美(北海道)「遠くの親戚より近くの他人」
○吉田久美(岩手県・欠席)「出会った数だけ」


【最優秀賞】(5編)

 
佐藤奈津紀さん                   長坂知穂さん

  
千葉美奈子さん            桝岡桃子さん            森千恵子さん

○佐藤奈津紀(山形県真室川町)「魔法の呪文」
○長坂知穂(静岡県沼津市)「子育てって、なんだろう?」
○千葉美奈子(栃木県)「“ぼくのお庭”から広がる地域の輪」
○桝岡桃子(東京都)「笑顔の連鎖」
○森千恵子(福岡県)「小さな手て、大きなお手て」


【内閣府特命担当大臣(少子化対策)賞】(1編)
○佐藤奈津紀(山形県真室川町)「魔法の呪文」

 

 山形県の佐藤奈津紀さんがエッセイ部門で最高賞を受賞しました。
 山形県真室川町は、山形県内陸北部、最上地方にあります。新庄市の北西側です。今年の最上地方は大雪で、真室川町も150cmを遥かに超える雪が積もっています。人口は約9100人。町の大半が山林です。“真室川音頭”が有名です。
 佐藤さんは、現在4人のお子さんのおかあさんです。「ダメ」これが私の口癖だった・・・と言う佐藤さん。やがて、子どもたちは反抗し、兄弟ケンカし、佐藤さん自身もイライラになります。
 ところが、ばあば(義母)は、子どもたちが何をやっても何を言っても「んだがあ」(「そうかあ」という方言です)。佐藤さんは「そんなに甘やかして」と憤りを覚えます。
 ところが、あるきっかけで、佐藤さんのご主人を育てたのは“ばあば”であることに気が付きます。優しいご主人を・・・。初めて“ばあば”を「先輩ママ」として見た瞬間でした。
 それから約1年。「んだがあ」が口癖になった佐藤さん。「んだがあ」を口に出すと、自然と優しい気持ちになる、それは「魔法の呪文」みたい・・・と佐藤さん。
 筆者(山口)が「“未来を築く子育てプロジェクト”へ、どうして応募したのですか?」と佐藤さんにインタビューしますと、「私は以前から紙芝居をしたり、読み聞かせをしたりしていました。また、自分でも文章・エッセイを書くのが得意なので、書いてみました」という答えが返ってきました。

 ステージ上でのインタビューには、次のように話されました。

 エッセイの内容は、私のダメさ加減を書いたもので、ちょっと恥ずかしいのですが、このような素晴らしい賞をいただき、感激しています。(会場に来ている家族に手を振りながら)子ども4人いまして、5人目がお腹におります。(会場から大きな拍手)
 少子化対策の担当大臣賞をいただき、本当にうれしく思っています。
 「んだがあ」と言うようになってから、子どもたちは私の言うことをよく聞くようになったし、私に寄ってくるようになったし、いっぱい笑いかけてくるようになりましたので、怒ることも少なくなり、子育てが楽しくなりました。「んだがあ」を教えてくれた母(ばあば)は“神”のような存在です。
 「んだがあ」はマスターしたので、次は「ちょっと待ってよ」を言わないようにします。母は、子どもたちが話しかけると、何かしていても「ちょっと待ってよ」とは絶対言わないです。洗濯していても「まずは子どもたち・・・」という姿勢が素晴らしいです。

 笑顔がとても素敵な佐藤さん。いずれにしても、山形県から“だがしや楽校だがしや倶楽部”と共に、2組の最高賞が出たことは、すごいことです。


【厚生労働大臣賞】(1編)
○長坂知穂(静岡県沼津市)「子育てって、なんだろう?」

 中学生の長坂さんが最高賞を受賞されたということで大きく報じられています。
 中学生保育体験、そして母親から聞いた自分を育てた時の苦労話。それをきっかけに、一人で悩んでいる若いおかあさんへ、中学生の私が言うのも烏滸がましいが、「殻を破って、全部はき出してほしい」という思いで書いたエッセイが最高賞を受賞しました。
 「子育ては大変。でも、かけがえが無く、楽しいものであるはず」と長坂さんは言います。
 母子家庭の中、長坂さんを育てたお母さんですが、子育ての苦しみに「死んでしまいたい」と思ったこともありました。そんな当時のおかあさんに気付いてくれ、声をかけてくれたのは、向かいの馴染みのおばさんでした。おかあさんは悩みを一気にはき出しました。
 「大阪の児童虐待事件もエッセイを書くきっかけになった」という長坂さん。「子育てとは一人ではできないこと。周りの人が声がけするだけでも良いんだ」という長坂さんのメッセージは重く伝わります。

 ステージで長坂さんは次のように語りました。

  

 (受賞についての感想は)夢を見ている感じで、かなり嬉しいです。
 母親がインターネットで“未来を築く子育てプロジェクト”を知り、母から軽い気持ちで声をかけられ、私も子どもが好きなので応募しました。この受賞は、いつも遊んでいる子どもたちに「やったぞ!」と伝えたいです。子どもたちは「また、あちょぼ〜」と言ってくれると思います。
 (子どもたちが私の両腕にぶら下がり)いつも季節外れのクリスマスツリーで、かなり大変ですが、楽しいです。
 (「おかあさまへひと言お願いします」と司会者に促され)これからもよろしくお願いします。


【講評】
○奥山千鶴子氏
 素晴らしい作品ばかりでした。一人ひとりの子育てにおける毎日の出来事・物語りが綴られていました。私が取り組んでいる“子育て広場”では、おかあさんたちがしゃべることで子育ての悩みをはき出しています。
 文章・エッセイに書き残したものは宝物になります。子育ては「親から子・子から孫」という循環だからです。また、書き残したものは社会を変える力になります。日本を子育てしやすい国に変えるのです。

    
奥山千鶴子氏                吉永みち子氏

○吉永みち子氏
 第1回から審査していますが、毎回新たな発見があります。今回のハイライトはセーラー服の女の子からの「子育てを考えなさい」というメッセージです。大きな動き・変化を感じ、ワクワクしました。今では、携帯から「SOS」メールを送るだけで立ち直る時代です。
 気になったのは男性が少ないことです。ただ、“イクメン”という言葉が生まれました。これからは新たなスタイルで子育てに取り組むおとうさんが増え、来年は応募も増えるでしょう。
 新しい波を感じます。

**********

●「子育て支援活動の表彰」部門
 「子育て支援活動の表彰」部門では、より良い子育て環境づくりに取り組む個人や団体より、活動されている内容や取り組みなどを募集した結果、146組の応募がありました。その中より厳正なる審査の結果、下記の通り決定しました。

【未来賞】(9組)
○ぷろじぇくと えん(鳥取県岩美郡)
○だがしや楽校だがしや倶楽部(代表:阿部等 山形県鶴岡市)
○網地島ふるさと楽好(アジシマフルサトガッコウ)(宮城県石巻市)

  
ぷろじぇくと えん        だがしや楽校だがしや倶楽部       網地島ふるさと楽好

○任意団体「NPO子どものまち」(千葉県佐倉市)
○障がいのある子もない子も共に演劇を!「劇団きらきら」(福岡県糟屋郡)
○特定非営利活動法人女性と子どものエンパワメント関西(兵庫県宝塚市)

  
     NPO子どものまち           劇団きらきら        女性と子どものエンパワメント関西

○NPO法人特別支援教育ネットワークがじゅまる(大阪府羽曳野市)
○豊田市男性保育師連盟(愛知県豊田市)
○まほうのランプ(東京都新宿区)

  
特別支援教育ネットワークがじゅまる     豊田市男性保育師連盟         まほうのランプ    


【未来大賞】(2組)
○ぷろじぇくと えん(鳥取県岩美郡)

○だがしや楽校だがしや倶楽部(代表:阿部等 山形県鶴岡市)

 


写真提供:阿部等さん


【内閣府特命担当大臣(少子化対策)賞】(1組)
○ぷろじぇくと えん(鳥取県岩美郡岩美町)

 

 鳥取県岩美町は、鳥取県の東端、兵庫県との県境に接する町です。
 “ぷろじぇくと えん”は、小中学生を主体とする“赤ちゃんとのふれあい会”を中心に、親子で楽しむ“アートスタート”などを開催しているほか、小学校で活動する“読み聞かせ”“おはなし訪問隊”など多くの活動を展開しています。
 代表・西浦公子さんのステージ・スピーチです。

 本日は素敵な賞をいただき、ありがとうございました。
 10年前“ぷろじぇくと えん”という名前を付けた時、「子どもたちがいるから何もできない」ではなく、「子どもたちがいるから何でもできる」を自分たちのテーマにして、活動してきました。
 8年前に“おはなし訪問隊”をやろうとなり、私たちは1歳2歳の子どもを連れて小学校へ行きました。校長室が託児ルームになりました。そして、託児の人と教室に入って読む人の二手に分かれてやりました。当時、11月〜の約1ヶ月間、17・8校をまわり、お話をしたり、ブックトークをしたりしました。
 6年前、「子どもたちのコミュニケーション力が欠けている」というのが話題になった時に、「赤ちゃんと触れ合いば、子どもたちは自己肯定感を得る」という鳥取県の中部にある高校の取り組みを聞いて、「これは良い。岩美町にも取り入れよう」と思い、小学校・中学校・高校で“赤ちゃんとのふれあい会」を始めました。
 実際にやってみて、子どもたちにとっては、赤ちゃんと接することで、「自分がどんなに可愛がられて育てられているか」を感じてもらうことが大事だな〜と思いました。
 おかあさん方にとっては、子どもたちと話をする場であり、同じ年代の子どもを持つ親との仲間づくりの場にもなっています。
 子どもたちが「おとうさんやおかあさんになる勉強をした」と言いながら赤ちゃんと触れ合っているのを見ますと、私たちは子どもたちから力やエネルギーをもらい、「またやろうね」となっています。
 私たちの地域は少子化で、赤ちゃんを探すのが大変なのですけど、参加したおかあさんが友だちを連れてきてくださったりして、だんだんと輪が広がっています。
 「赤ちゃんとおかあさんに芸術を」と“アートスタート”を始めて4年目です。
 このような取り組みをしながら、「自分たちが楽しもうよね」をモットーに、そして「みんなに愛と笑いと夢を届けたいね」という思いで活動しています。
 これからも、やり方は変わるかもしれませんが、活動は続けていきます。
 

【厚生労働大臣賞】(1組)
○だがしや楽校だがしや倶楽部(代表:阿部等 山形県鶴岡市)

 


写真提供:阿部等さん


受賞の理由をいつくか挙げておきます。
(1)活動の継続性
 松田道雄さんが“だがしや楽校”を発案されて約15年。2000年代に入ると、徐々に仲間が増えます。そして、2004年には阿部等さんを中心に“だがしや楽校だがしや倶楽部”が設立されます。筆者(山口)も同年“だがしや楽校”に感染します。その頃から全国各地にも“だがしや楽校”仲間が増え始め、2006年には第1回の“だがしや楽校”全国寄り合いを開催します。その後も“だがしや楽校”は、全国各地でさまざまなスタイル・やり方で開かれていたり、ツール・理念として活用されています。
(2)活動の先駆性
 民間主体の活動で、地域性とユニークさが抜きん出ていることが高く評価されました。阿部さんによると、金田一先生からは「融通無碍」という言葉をいただき、「型に嵌らない活動をこれからも続けてください」というコメントをいただきました。
 融通無碍・・・「考え方や行動にとらわれるところがなく、自由であること。また、そのさま。」という意味です。すなわち、年齢・性別・立場に関係なく様々な人たちが、様々なスタイル・やり方で開かれていたり、ツール・理念として活用されていることが高く評価されました。
(3)全国への広まり
 活動が全国に波及していることも選考の理由でした。ここで、あらためて全国のすべての“だがしや楽校”の仲間の皆様に感謝申し上げます。
(4)現地調査での評価
 2010年11月3日、筆者(山口)が主催して開いた“だがしや楽校@発祥の地”について、活動者および子どもたちが楽しそうに生き生きとしているところも良かったそうです。

 

 それでは、ちょっと緊張気味だった阿部等さんのステージ・スピーチをご紹介します。

 “だがしや楽校”というのは、山形市の小さな駄菓子屋さんの前で、小さな活動を始めたのがきっかけです。それが今では全国に広がるような活動に展開しています。
 最初の頃は、駄菓子屋さんの前で、小さな子どもたちが楽しそうに遊んでいるのを、大人たちが見ました。そして「自分が子どもだった頃は、こういう活動(風景)ってあったよな」と思いました。そこで、そういう風景を、なんとか現代によみがえらせたいということで始めた活動です。
 今では各地でいろんな活動が展開されるようになりました。小さい活動ですが、皆さんの地域にも広がっていただければ、と思いながら、これからも活動を続けていきたいと思っています。
 ありがとうございました。

 以上が阿部さんのステージ・スピーチです。
 筆者とのある日の夜の“だがしや楽校”で阿部さんは「全国にはいろんな“だがしや楽校”があるが、自分はやっぱり『子ども』だ」と語っていました。その阿部さんの思いが、今回の受賞につながったと思うと、とても感慨深いものを感じます。これが阿部さんの“だがしや楽校”に対する信念です。


【講評】
○大日向雅美氏
 選考は楽しく、そして勉強にもなりました。
 過去3回ではオーソドックスな子育て支援活動が多かったのですが、第4回の今回は、新たなステージ・第2ステージに入ったという印象です。また、地域の香りが漂い、旅をしているようでもありました。
 今、子育て支援は、新たな段階に入っています。親・家庭だけが子育てを担うのではなく、社会・地域のみんなで支えようという段階なのですが、それをまさに体現しているような活動だったと思います。
 しかも、やっている方がとても楽しんでいることも印象的でした。やっている人たちが生き甲斐をもって語らってこそ、親が元気になるのではないでしょうか。
 もうひとつの特徴は子どもが本当に生き生きと活動していることです。
 また、この部門は9人中5人が男性でした。男性保育師さんも登壇してくださいました。男性が地域の中で活動していることがよくわかりました。
 皆様の活動が全国のモデルとなり、地域で・社会で、子どもを支えようということが、日本中に広がっていくことを心から願っております。

    
  大日向雅美氏                 奥山千鶴子氏

○奥山千鶴子氏
 皆さんが、それぞれ地域で、信念を持って活動され、本日受賞されたことに、私も嬉しく思っています。
 全国各地で、それぞれに特色のある活動だったと思っています。そう考えますと、国が一律に子育て支援を行うこととは別に、地域の特性に合わせた支援策がとても大事で、それを育てるような支援が必要である、とあらためて感じた次第です。ぜひそのあたり(国には)地域での活動が活性化できるような支援の仕方をご検討いただきたいと思います。
 それと、今回いろいろな活動を見て感じたのは、子育て家庭だけで、子どもを生み育てることが厳しくなってきている中で、「なんとかしなくてはいけないという」皆さんの熱意・・・それは当事者から出てきた熱意もありますし、自分たちが子どもだった頃を振り返って「昔は地域にあったのに、今はなくなってしまったので、なんとか再生しよう」という紬直しのような大きな熱意・動きを感じることができました。
 こういう活動というのは、周りから批判を浴びたり、「なぜそういう活動をしなければならないの」と見られることもありますが、「子どものためには・子育て家庭のためには、これが大事なんだ」という信念を持ち、振れなく守って活動を展開し、さらに独りよがりではなく、学校や地域、そしていろんな人たちを巻き込んで活動を展開してきたという、そのパワーが素晴らしいと思いました。
 皆さんの活動が全国に広がり、みんなで力を合わせ、日本の子育て環境を変えていきたいと思いました。受賞、おめでとうございました。

**********

●「女性研究者への支援の表彰」部門
 育児のために研究を中断している研究者、及び育児を行いながら研究を続けている女性研究者が、研究環境や生活環境を維持・継続するために、助成金1年間100万円を上限として、2年間支給するという支援です。今回は総数152名の応募がありました。表彰式では、その中から選ばれた10名が表彰されました。

○稲山円(欠席)(東京外国語大学大学院 地域文化研究科 博士後期課程)「現代イランにおける宗教と女性 〜テヘランにおける宗教儀礼の現地調査から〜」
○大村華子(京都大学大学院 法学研究科 博士後期課程)「日本政治における社会保障政策と世論の関係」
○崎原(小嶺)千尋(ハワイ大学大学院 アメリカ研究学部 博士課程)「アメリカ人女性と沖縄:近代沖縄と戦後沖縄を比較して」
○塩谷暁代(欠席)(名古屋大学大学院 文学研究科)「女性が動かすアフリカ・カメルーンの都市・農村地域経済:女性商人の生活世界と経済的役割に関する人類学的研究」
○内藤陽子(北海道大学大学院 国際広報メディア・観光学院 博士後期課程)「国境・地域間移動に伴う社会文化的統合:帰国者の家族の事例から」
○二階堂祐子(城西国際大学大学院 人文科学研究科女性学専攻 修士課程)「出生前検査をめぐる障害女性の語り」
○KHATAYEVA TETYANA(北海道大学大学院 国際広報メディア・観光学院 博士後期課程)「ウクライナの木造教会堂建築 〜ウクライナ国ドロゴビチ市の聖ユリイ教会堂(1657)の図像配置プログラミング〜」
○Barolli Arbana(新潟大学大学院 現在社会文化研究科 博士後期課程)「日本アニメの生成発達と外国における受容について」
○Myagmar Ariuntuya(一橋大学大学院 社会学研究科 博士後期課程)「国際教育支援の働きかけおよび教育改革の行方 〜モンゴルの就学前教育改革における〈子ども中心主義型アプローチ〉の実施実態をめぐって〜」
○村角紀子(無所属)「明治期における日本美術史学の形成と展開 〜個人研究者と美術専門出版社の活動を軸に」

【受賞者代表挨拶・・・KHATAYEVA TETYANA(ハタエワ・タチアナ)さん】

 日本では男性研究者に比べて女性研究者が少なく、出産の後に研究を断念してしまう場合も多いと聞いておりました。
 私も日本への留学が決まった時期に、結婚が決まり、日本で出産を経験することになりました。たくさんの方々に支えられ、なんとかここまで研究を続けてこられたものの、親戚もいないため、子どもを預けるのも大変苦労しました。その結果、研究も調査もままならないこともありました。
 その状況の中で、住友生命の“未来を築く子育てプロジェクト”を知り、私たち女性研究者のことを考え、支援が行われていることを知っただけで、大変心強く思いました。
 今回このような素晴らしい賞を受賞し、大変光栄に思います。この助成をいただけたことで、安心して研究に取り組むことができます。本当にありがとうございました。

 タチアナさんのスピーチ、お見事でした。内容も見事ですが、完璧な日本語です。テープ起こしの際、話された言葉をほとんど編集することなく、文字に起こすことができたからです。凄かったです。

【講評】
○大日向雅美氏
 この選考では、私自身のことを思い出し、いつも胸が熱くなりながら書類を読ませていただいています。子育てと研究の両立、今も昔も大変だと思います。そうした中、今年の受賞者は、パートナーはもちろん、周りの人たちの協力を上手に受けながら、着実に一歩一歩ずつ研究成果を積み上げておられます。それを感慨深く拝見しました。
 皆様は、もう少しがんばったら博士論文に手が届くとか、もう一歩で研究者としての安定した地位・定職に就ける、そんなところにいる方が多いと思います。ある意味、一番苦しい時かもしれません。そういう時に、私の好きな言葉(※注1)を贈りたいと思います。
   花の咲かない寒い日は
     下へ下へと根を伸ばせ
       いつか大きな花が咲く
 きょうは外も寒いです。今は、研究と子育て、また定職に就けるかという、いろんな不安の中で厳しい時間を重ねていると思いますが、あきらめずに地道に努力している皆様の根が下へ下へと着実に伸びているからこそ、きょうの受賞と出会えたのではないかと思います。花が大きく開くのも間近だと思います。
 さて、この賞はとても意義があります。国の政策検討では女性研究者の問題も議論されます。しかし、その時に議論されるのは理数系の研究者です。成果が見えるからです。でも、目には見えなくても、人文系の研究は非常に大切です。私たちの暮らし・社会保障にもかかわることなのです。ところが、効率主義・合理主義の日本が忘れていたことでもあります。
 この賞をこれからも続けてくださいますようお願いします。

※注1:女子マラソンの高橋尚子さんの座右の銘として知られている言葉です。高橋尚子さんが高校生だった頃、恩師の先生から贈られた言葉だそうです。

    
大日向雅美氏                金田一秀穂氏

○金田一秀穂氏
 子育てというのは、人間が20万年続けてきたことです。
 人文社会科学というのは人間について研究するものです。人間についてきちんと見ることができるのは子育てをした人です。そういう意味で、このような支援ができることを嬉しく思います。
 これからは、子育て支援・少子化対策は、地球規模になります。それで、「未来を築く」というより「地球の未来を築く」という広がりをみせてきました。
 私は外国からの留学生を見ていますが、「日本が嫌いになった」という人も多いです。それは、経済的支援が貧困だからです。そういう意味でも、この支援は意義があります。日本で学び、自国に帰られ、そこで新たな未来が広がっていくという地球規模の展開に、ワクワクしています。その一員にいられることは光栄です。
 きょうはおめでとうございます。しっかり研究を続けてください。


★総評・・・池田守男氏
 それぞれのプロジェクト・エッセイは地域に深く根ざしたものであり、地域の風をこの場に持ち込んでいただいたように感じます。子育て支援活動は、皆様のような人間的温かさがなければ、定着しないと思います。
 現代は人間関係が疎遠になっていると言われます。家族・隣人・地域社会の絆が希薄になっている社会に対し、私は「なんとかしなければならない」という思いを持っています。
 しかし、きょうの皆様のお話をお聞きしますと、地域の中で素晴らしい仕事をされている人が、むしろ多いのではないかと思います。でも、それがメッセージとして伝わってないのではないでしょうか。ですから、それを私どもが広報活動をさせていただき、エッセイ、活動の思い、女性研究者のご苦労されている姿を共有し、共鳴できる社会を作っていく必要があると思います。
 そのためには、民間や個人による社会貢献活動がますます重要になってくると思います。そうでないと、温かく・潤いがある、そしてきめ細かな対応はできません。
 すべてを肯定的に、活動・人生・命に対して取り組んでおられる皆様方には、「んだがあ」は勇気付けられる言葉であり、また「んだがあ」と肯定的に捉えて、努力していくことが重要です。
 私は皆様と共に無縁社会と決別していかなければならないと思っています。マスコミに無縁社会と言わせることがない、温かな、思いやりのある、優しい社会を作っていこうではありませんか。

    
池田守男氏                   佐藤義雄氏

★祝辞 住友生命保険相互会社 代表取締役 佐藤義雄氏
 本表彰式への参加に感謝します。受賞者の皆様にはお祝いを申し上げます。
 “未来を築く子育てプロジェクト”は当社の創業100周年を記念して開始した事業です。今回も多数の応募があったことに感謝すると共に、実行委員をはじめ、内閣府と厚生労働省、マスコミ・メディアの皆様にも御礼申し上げます。
 本プロジェクトで子育てに関する情報に接していますと、地縁・血縁が希薄になる中、ひとりで子育てに悩んでいる人が多いと実感しています。だからこそ、子育て環境整備については、行政の取り組みに加え、企業での取り組み、地域の人々の理解が重要です。
 そういった観点から最近の受賞作から感じますのは、子育てに対する意識が、従来の親や家族任せといったものから、社会全体あるいは地域全体で支えていこうという方向に、少しずつ、しかしながら、確実に変わりつつあるということです。
 そうした動きに、本プロジェクトが少しでもお役に立っているとすれば、この上ない喜びです。
 当社内でも、子育て時期の多様な働き方を推進しております。平成17年より女性活躍推進の取り組みを行っています。これら一連の取り組みが評価され、均等両立推進企業表彰におきまして厚生労働大臣優良賞を、また日本経済新聞社様からは2010年日経子育て支援大賞を受賞することができました。
 本業である「世の中に安心をお届けする」という生命保険業を通じて、社会に貢献することを事業精神にしていますが、企業も市民です。企業市民として、様々な取り組みを通じて、社会の貢献する責任があると考えています。
 来るべき未来には、多くの子どもたちの笑顔が溢れ、活力ある社会にするためには、安心して子どもを持ち・育てることができる社会にすることが必要と考えています。そのために私たちが少しでもお役に立てればと考えています。
 今後とも本プロジェクトにより、より良い子育て環境づくりが、日本社会に広まっていくことを心から願っています。


★懇親会
 懇親会は、住友生命保険相互会社 取締役会長 横山進一氏の乾杯の音頭で始まりました。

  

 さて、右の写真は、横浜からお祝いに駆け付けていただいた“だがしや楽校”仲間の田中靖子さん(NPO法人教育支援協会)と堀田力さんです。
 田中さんは、堀田さんに“だがしや楽校”について説明、さらに“だがしや楽校”が横浜にも広まっていることを紹介されました。
 それに対して堀田さんは「それだけ魅力ある活動なんですね」と応じられました。さらに堀田さんは「先程、阿部さんと山形県の高校生ボランティア活動についてお話しました」と語られました。
 山形県にも縁がある堀田さん。実は、つい先頃も山形県を訪れています。そのためでしょうか、山形県のNPO活動・ボランティア活動事情もよくご存じです。それで、高校生ボランティアの『山形方式』もご存じだったわけです。
 『山形方式』とは、学校単位ではなく、学校という枠を越え、地域毎にグループを組んで活動する高校ボランティア活動のことを言います。堀田さんによりますと、この『山形方式』は隣接する県にも波及しているそうです。

 さて、途中から筆者(山口)も話に交えていただき、名刺も交換させていただいたのですが、堀田さんは名刺を渡す時「“名刺両面大作戦”を展開中です」と紹介してくださいました。
 名刺両面大作戦とは・・・片面には本業を表記し、片方には本業以外のことを表記する、本業以外とは地域活動のことです。先に紹介しました堀田さんの挨拶を振り返ってみましょう。堀田さんは男性サラリーマンに地域活動への参加を呼びかけていることを話されました。これが“名刺両面大作戦”とつながるわけです。この“名刺両面大作戦”には、ホームページもあります。
 この堀田さんの話を聞いて少々勢い付いた筆者は、恐れながら、しかし胸を張って、堀田さんへ「私の名刺も両面です」と申し上げました。


★記念撮影


受賞者及び関係者全員による記念撮影


「子育て支援活動の表彰」部門の受賞者及び関係者による記念撮影

★だがしや楽校仲間の記念撮影

  

 左の写真は田中靖子さんに筆者のカメラを使って撮影していただいたもの、右の写真は田中靖子さんに山形の仲間へ入っていただき、筆者が撮影した写真です。


2011年2月20日(日曜日晴れ

【賞状・駄菓子屋“はじめや”へ】
 去る2月14日の第4回“未来を築く子育てプロジェクト”表彰式にて“だがしや楽校だがしや倶楽部”代表・阿部等さんに授与された表彰状について、阿部さんは「山形の“だがしや楽校”は、駄菓子屋“はじめや”のおばちゃん(山川昭子さん)があってのもの。今回の本当の受賞者は山川おばちゃん。だから、賞状は山川おばちゃんに贈呈し、“はじめや”のお店に掲示してもらうべきもの」という思いがありました。
 本日、阿部さんは駄菓子屋“はじめや”(山形市)に山川おばちゃんを訪ね、賞状を贈呈しました。

 

 また、表彰式の様子について、阿部さん及び筆者は、山川おばちゃんへ報告。残念ながら事情で表彰式に出席できなかった山川おばちゃんは、嬉しそうに報告を聞いていました。
 賞状は“はじめや”の店内に飾っていただきます。

 

取材・企画・制作・編集・文責
山口充夫
だがしや楽校オフィシャルコーディネーター
おきたまラジオNPOセンター

未来を築く子育てプロジェクト

だがしや楽校@発祥の地(2010年11月3日)

だがしや楽校

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公益のふるさと創り鶴岡

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